深夜2時、サークルの中から高い声が続いている。行けば静かになるけれど、離れればまた鳴く。抱いて寝てしまいたい気持ちと、癖になったらどうしようという不安の、ちょうど真ん中で迷っている——迎えて数日の飼い主さんは、たいていここにいます。
先に、いちばん知りたいところから書きます。迎えた直後の夜鳴きは、多くの子犬で1週間以内に落ち着きます。英国で60頭の子犬を迎えた日から56日間追いかけた研究では、ひとりで寝た子犬の71%が初日の夜に飼い主を起こし、7日目に残っていたのは22%、14日目には15%を切っていました。合計しても平均5.5夜です。
そしてもうひとつ。夜鳴きには、行かなくていい鳴き方と、行かなければいけない鳴き方があります。この記事では両者を表で分け、寝床をどこに置き、何日かけてどう離すか、集合住宅で近所にどう手を打つかまで、初日からの順で書きます。成犬や老犬の夜鳴きは別の話になるので最後に分けました。
PR・広告を含みます
最終更新 2026年9月8日
最初の夜に鳴くのは、子犬の側では正常な反応です
![]()
要点は3つ。子犬はこれまで一度もひとりで眠ったことがないこと。ひとりで目が覚めることが、子犬にとっては「何か起きた」の合図だということ。そして生後2ヶ月の体は、まだ一晩ぶんの排泄を我慢できないことです。
昨日まで、8時間つづけてひとりだった夜はない
日本の家庭に来る子犬は、生後6週から10週くらいが中心です。その日まで、眠る場所にはいつも母犬と兄弟犬がいました。体温も、においも、呼吸の音もある場所です。それが一日で、ひとりきりの床に変わります。
なぜ夜だけなのか。英国の動物福祉団体PDSAの獣医師チームは、目を覚ましたときの状況が昼と夜で逆になるからだと説明しています。昼なら、眠る前にいた人が起きたときもそこにいます。夜はいません。子犬が確かめているのは時刻ではなく、そばに誰かいるかどうかです。オーストラリアの獣医師は、野生で子犬が単独になるのは何かが起きたときだけだと書いています。だから声を出す。飼い主を困らせようとしているのではありません。
そもそも、まだ膀胱が一晩もたない
もうひとつ、体の事情があります。子犬の排尿は1日10回ほど。ためておける時間の目安は、月齢に1を足した時間といわれます。生後2ヶ月なら3時間ほど、3ヶ月でも4時間前後。夜の8時間には届きません。英国の動物福祉団体Woodgreenも、生後12週未満の子犬は夜のあいだに最低1回は排泄の機会が要るとしています。
つまり、夜中に目が覚めること自体は避けられません。問題は目が覚めたことではなく、目が覚めたときに何が起きるかです。ここから先の全部が、その一点にかかっています。
「鳴かせて慣れさせる」は、この時期には当てはまりません
放っておけばそのうち諦める、という説明を見かけます。ただ、迎えたばかりの子犬については、英国の主要な動物福祉団体がそろって否定しています。ブルークロスは、母犬と兄弟から離れた直後の子犬を鳴くままにするのは強いストレスだとしています。PDSAはさらに、やがて鳴きやんでも不安はむしろ増している場合があるとしています。この時期の静けさは、安心できている証拠にはなりません。
PR
夜中に鳴かれたとき、傍に行くべきか迷っていませんか?
夜鳴きでいちばん難しいのは、手順ではなく「今の声はどういう意味なのか」の判断です。眠い頭で読んだ知識を思い出すのは、なかなか大変です。
先に映像で見ておくと、どうしたらいいのかの判断が速くなります。迎えた直後にやることまで、「イヌバーシティ」なら順に確かめられますよ。
※ 公式ページが開きます。教材のサンプル動画をそのまま見られます。
いつまで続くのか|56日間の記録が示す目安
![]()
「あと何日で終わるのか」がいちばん知りたいところだと思います。ここは感覚ではなく、実際に数えた記録があります。
初日は71%、7日目は22%、14日目で15%を切る
英国のリンカーン大学のチームが、生後6〜10週で新しい家に来た子犬60頭について、飼い主に毎朝「昨夜どうだったか」を記録してもらい、56日間の推移を調べています。ひとりで寝ていた49頭の結果です。
| 迎えてから | その夜に飼い主を起こした子犬 | その夜に寝床を汚した子犬 | この時期にやること |
|---|---|---|---|
| 1日目の夜 | 71% | 84% | 同じ部屋で寝る。夜中の排泄に付き合う |
| 7日目の夜 | 22% | 65% | 寝床を少しずつ動かし始める |
| 14日目の夜 | 15%未満 | 59% | 夜中の付き添いを1回に減らす |
| 28日目の夜 | ごく少数のみ | 45% | 夜鳴きは終わっている想定。トイレは継続中 |
| 56日目(8週) | ほぼゼロ | 10〜20% | まだ失敗があっても月齢どおり |
合計すると、ひとりで寝た子犬が飼い主を起こした夜は8週間で平均5.5夜、中央値4夜。ただし幅は大きく、0夜の子から25夜の子までいます。「1週間で終わる子が多いが、3週間かかる子もいる」くらいに構えるのがちょうどいい見当です。
国内で獣医師が書いた解説も、近い幅を示しています。長引いても2週間のうちには収まり、原因に合った手当てができていれば2日か3日で静かになる子が多い、という書き方です。出どころの違う数字が同じあたりに落ちるのは、心強い材料だと思います。
差がついたのは「ひとりにしないこと」だった
同じ研究で、はっきり差が出た条件がひとつあります。先住犬と一緒に寝ていた11頭は、鳴いた夜数の中央値が0でした。ひとりで寝た子犬の中央値は4夜でした。
先住犬がいない家でも、読めることは大きいはずです。子犬が求めているのは飼い主の姿そのものではなく、そばに誰かがいるという状態。最初の数日を寝室で過ごさせるだけで、多くの夜鳴きは起きる前に消えます。
夜鳴きは1週間、夜のトイレは2ヶ月
表をもう一度見てください。鳴くことと寝床を汚すことでは、収まる速さがまるで違います。鳴き声は1〜2週間で消えるのに、夜の排泄の失敗は28日目でも45%、8週間たっても10〜20%が続きます。
ここを混同すると、飼い主の側が消耗します。夜鳴きが止まったのに朝シーツが濡れていると「後戻りした」と感じますが、そうではありません。この2つは別の時計で動いています。夜のトイレは、膀胱が育つのを待つ部分が大きい。手順は子犬のトイレトレーニングの記事にまとめました。
【表】無視していい鳴き方と、無視してはいけない鳴き方
![]()
この記事でいちばん大事な章です。「夜鳴きは無視」と「夜鳴きを無視してはいけない」は、どちらも正しく、対象が違うだけ。まず見分けてください。
| 鳴き方・様子 | 背景にあるもの | 行く/行かない | その場でやること |
|---|---|---|---|
| 鼻先を床につけて嗅ぎ回る。同じ場所で小さく回る。起きて落ち着かない | 排泄したい。出したあと静かになる | 行く | 無言でトイレへ運ぶ。出たら小声で1回褒めて、すぐ寝床へ戻す |
| 体を丸めて震える、身を寄せる場所を探す | 寒い。生後3ヶ月未満は体温調節が未熟 | 行く | タオルで包んだ湯たんぽを寝床の端に置く。直接触れない位置に |
| ハアハアと浅い呼吸、体を伸ばして床に寝る | 暑い | 行く | 室温を下げる。子犬が自分で移動できる涼しい場所を作る |
| 嘔吐・下痢・食欲がない・体が熱い・鳴き方がいつもと違う | 体調不良。子犬は急に悪化する | 行く。朝を待たないことも | 夜間対応の動物病院に電話で相談 |
| 空の食器をなめている。明け方に黄色い液を吐くが、そのあとは元気 | 空腹。胃が空になりすぎている | 行く(ただし夜に手渡しはしない) | 翌日から夕食の時間と回数を見直す。1日3回以上に分ける |
| 数十分やまない、破壊や失禁を伴う、日中も後追いが激しい | 分離不安の兆候。慣れの問題ではない | 行く。翌日に相談 | 自己流で放置しない |
| 迎えて2週間以上たち、上のどれにも当てはまらない。行くと止み、離れると再開する | 要求。「鳴けば来る」が学習されている | 行かない | のぞかない、声もかけない。静かになった数秒後に戻る |
運用は簡単です。迎えて最初の1〜2週間は、原則として行く。そのうえで、上から6つのどれにも当てはまらない鳴き方が2週間を過ぎても残っていたら、そこで初めていちばん下の行に切り替えます。順番を逆にして初日から放置すると、不安が育つだけです。
行くときの「行き方」で、この先が決まる
行くこと自体は問題ありません。問題は、行ったときに子犬にとって楽しい時間が始まってしまうことです。PDSAもWoodgreenも、夜に行くときは接触を最小限にと勧めます。抱き上げる、話しかける、遊ぶ。これが数回あると、子犬は「鳴く→良い時間が来る」を覚えます。
夜中に行くときの4つのルール
- 光を足さない。足元灯だけで動きます。明るくなると子犬の体は「朝だ」と判断します
- 声を足さない。話しかけない、目も合わせない。褒めるのは、正しい場所で排泄できた瞬間の一言だけ。それも小声で
- 手を足さない。トイレへ運ぶときだけ抱え、それ以外は手を近くに置くか、そっと背中に触れるだけ
- 時間を足さない。排泄が終わったら、そのまま寝床へ。遊ばない、おやつも出さない。全部で3分以内に終える気持ちで
一度でも「鳴いたら来てもらえた」が成立すると、なぜ長引くのか
行動が続く仕組みは単純です。ある行動のあとに良いことが起きると、その行動は増える。厄介なのはその先です。
毎回必ず来てもらえる状態より、10回鳴いて1回だけ来てもらえる状態のほうが、行動は強く、しつこくなります。当たり外れがあるほうが粘りが出るからです。「今夜は我慢したけれど、30分たって心配になって見に行った」を数日くり返した家では、夜鳴きが最初より長く、大きくなります。
避ける方法は根性ではありません。鳴く前に行くことです。目覚ましを夜中の2時にセットし、鳴いていなければ静かにトイレへ連れて行って、また寝かせる。これなら「鳴いたから来た」になりません。Woodgreenも、飼い主が先にアラームで起きる方法を勧めています。子犬が泣き叫ぶ前に用が足せるぶん、双方の消耗が減ります。
それでも、迎えて2週間を過ぎて要求の鳴きが残った場合は、行かない対応に切り替えます。このとき最初の2〜3日は、かえって激しくなります。これは失敗ではなく、行動が消えていく途中に必ず出る山です。ここで根負けして一度でも行くと、山の高さが次の基準になります。この現象の詳しい説明と、切り替えの手順は要求吠えの記事に書きました。
初日からの手順|寝床の位置、夜のルーティン、集合住宅での手当て
![]()
寝床をどこに置くかが7割、寝る前の1時間の過ごし方が3割。この配分で組み立ててください。
1|最初の数日は、寝室で寝かせる
迎えた初日から離れた部屋でひとりにするのは、いちばん難しい方法です。英国の主要団体はどこも、最初の数晩は同じ部屋で過ごすことを勧めています。ブルークロスは寝室にベッドかクレートを置くこと、PDSAは最初の数晩だけでも同じ部屋で寝ることを推奨。置き場所の条件は次のとおりです。
- 飼い主の顔から1m以内。手を伸ばせば柵に触れる距離が理想です。子犬から人の姿が見えるだけで、鳴く回数が変わります。
- 眠る区画は、伏せた姿勢が収まる程度で足ります。広すぎると、子犬が自分で「寝る隅」と「する隅」を決めてしまい、こちらの置いたシーツが使われません。ただし夜の我慢はさせられないので、サークル全体は寝床とトイレを分けられる大きさにし、シーツは寝床から遠い側へ。
- 寝床とトイレは、できるだけ離す。犬は寝る場所の近くで排泄したがりません。近すぎると我慢して、鳴きます。
- 前の家のにおいを入れる。子犬を譲り受けた先(犬舎やペットショップ)で、母犬や兄弟のにおいがついた布をもらえるなら必ず持ち帰ります。もらえなければ、その日着ていた自分のTシャツで代用を。
- タオルで巻いた湯たんぽを端に置く。生後3ヶ月未満は寒さに弱い一方、暑ければ自分で離れられる配置にします。直接触れないよう厚めに包んでください。
2|寝床は、数日ごとに30cmずつ動かす
多くの家がつまずくところです。数日で落ち着いたからと、翌日いきなり別の部屋へ移すと、そこからやり直しになります。動かし方は2つあり、英国のドッグストラストはどちらも紹介しています。
- 寝床のほうを動かす。寝室に置いた子犬のベッドやクレートを、数日ごとに少しずつ、目的の場所へ近づけていく。
- 人のほうを動かす。最終的に子犬を寝かせたい場所に最初から寝床を置き、飼い主が床に布団を敷いて隣で寝る。その布団を数日ごとに離していき、最後は自分の寝室へ戻る。
基準は「子犬の寝床の場所をあとから変えたくないかどうか」。クレートを最終的な位置に固定したい家は後者が向いています。動かす距離はWoodgreenが30cm前後を挙げています。2晩続けて静かに眠れたら、次の晩に30cm。鳴く夜が出たらその晩は動かさず、同じ距離のまま2晩やり直します。数週間かかる家も珍しくありません。クレートを嫌がって入らない段階なら、夜の話に進む前にハウスを好きになる練習を先に済ませてください。
3|寝る前3時間の組み立て
夜の落ち着き方は、寝かせる直前より前の数時間で決まります。就寝時刻から逆算して組んでください。Woodgreenの手順もほぼこの形です。
- 夕方|体力を使い切る。ワクチンが済む前でも、抱っこやキャリーで外の空気に当てるだけで刺激になります。日中に寝てばかりだと夜に目が冴えます。
- 3時間前|最後の食事を終える。そのあとに排便が済めば、夜中に起きる理由がひとつ減ります。生後6ヶ月未満は胃が小さいので、1日の量を3回以上に分けてください。
- 30分前|家じゅうのテンションを落とす。照明を落とし、声のトーンを下げ、興奮する遊びはやめます。ここで盛り上げると、寝床に入れても切り替わりません。
- 直前|必ずトイレ。外派の子は庭やベランダへ。出るまで待って、出たら小声で褒めます。
- 入れたあと|噛んでいい物をひとつ渡す。噛む動作そのものが子犬を落ち着かせます。飲み込めない大きさの知育トイ(コング等)にフードを詰めておくのが手軽です。布のぬいぐるみは、噛みちぎる子には向きません。
4|マンション・アパートの場合にやっておくこと
集合住宅では、夜鳴きが自分の家だけの問題で終わりません。環境省の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」でも、鳴き声などで近隣に迷惑をかけないことは飼い主の責務とされています。ただ、実際に働くのは対策より先手の一言です。
迎える前後にやっておく4つ
- 両隣と上下の階へ、迎える前に挨拶しておく。「子犬を迎えます。最初の1〜2週間は夜に鳴くかもしれません」と伝えるだけで、受け取られ方がまるで変わります。国内のペット保険会社の獣医師も、先に一言かけておくことを勧めています
- 寝床を、隣戸と接する壁・玄関ドア・窓から離す。声は壁と開口部から抜けます。部屋の中央寄りに置くだけで、外に届く量が減ります
- サークルの下に厚手のマットを敷く。鳴き声そのものより、動き回る音や柵をかじる音のほうが響くことがあります
- この時期だけは、寝室で寝かせる理由がもうひとつ増える。そばにいれば鳴く時間が短くて済み、結果として近所への音がいちばん減ります
それでも苦情が来たら、我慢比べにしないでください。「今この時期だけで、いつまでに落ち着く見込みか」を具体的に伝えると、多くの場合は待ってもらえます。この記事の日数の目安がそのまま使えます。
やってはいけないNG対応
![]()
夜鳴きの厄介さは、睡眠が削られた状態で判断を迫られる点です。眠い頭で選びやすく、尾を引くものを6つ挙げます。
大きな声で叱る、床を叩く、物音で驚かせる。その瞬間は止まります。ただし子犬が学ぶのは「夜は怖いことが起きる場所だ」であって、静かに眠ることではありません。国内の獣医師が監修した解説でも、音や物で驚かせて止めようとするやり方は、音や気配に過敏な犬を作り、後年の噛みつきにつながることがあると指摘されています。不安で鳴いている相手に、さらに怖い思いをさせることになります。
鳴いている最中に抱き上げてあやす。行くこと自体は否定しません。ただし抱き上げて揺らす、話しかける、ベッドへ連れて行くといった「良い時間」を毎回つけると、鳴き声そのものが目的になります。行くなら、無言・低照度・3分以内。
鳴いたからおやつやごはんを出す。空腹が原因の夜鳴きは実在しますが、対処するのは翌日の食事の時間と回数です。夜中に手から与えると、その時間の空腹だけでなく「鳴けば出てくる」まで一緒に教えることになります。
寝床を罰の場所に使う。日中にいたずらをしたときサークルへ入れる、という使い方をしていると、夜そこへ入れられること自体が嫌になります。ブルークロスも、寝る場所を罰として使わないよう明記しています。寝床は、良いことが起きる場所として保っておいてください。
初日からケージを別室に置き、扉を閉めて朝まで放置する。「早く慣れさせたい」という発想ですが、この時期は遠回りです。不安を強めるうえ、まだ我慢できない排泄が寝床で起きるので、汚れた場所で朝まで過ごすことになります。
毎晩やり方を変える。今日は寝室、明日は別室、明後日は一緒のベッド。子犬にはどれも新しい状況で、そのたびに一からです。2週間は同じやり方を通すと決めてから始めてください。
成犬・老犬の夜鳴きは、まったく別の問題です
![]()
ここまでは迎えたばかりの子犬の話です。これまで静かに寝ていた犬がある時期から夜に鳴き出した場合は、この記事の手順を当てはめないでください。背景がまるで違います。
成犬の場合|まず体、次に留守番
犬は不調を表に出しにくい動物です。国内の獣医師が書いた解説でも、鳴いて訴える段階ではすでに軽くない状態のことがある、とされています。確かめるのは4つ。鳴き方はいつもと同じか。歩き方は。触られて嫌がる場所は。吐いたり下したりは。ひとつでも引っかかれば、しつけの話ではありません。夜間対応の動物病院に電話で相談を。
体に問題がなければ、留守番中の様子を疑います。出かけた直後から歩き回る、よだれ、破壊、排泄の失敗が伴うなら、夜鳴きもそこから伸びた枝かもしれません。犬の分離不安の記事で段階を確かめてください。
老犬の場合|認知機能不全という選択肢を外さない
高齢になってからの夜鳴きでは、認知機能不全症候群が候補に入ります。獣医学の標準的な資料であるMerck獣医マニュアルは、この状態で変化が出る6つを頭文字からDISHAAと呼びます。見当識、人との関わり方、睡眠と覚醒のリズム、排泄、不安、活動量です。夜中に歩き回って鳴くのは、3つめがそのまま出た形です。
頻度も示されています。同マニュアルが引く調査では、11〜12歳の犬の28%、15〜16歳では68%に、この状態に合う兆候が見られました。別の調査では10歳を超えた犬の14.2%と推定される一方、そのうち85%以上が診断を受けていないとされています。「歳だから」で片づけられている数が、それだけあるということです。
受診が要る理由は2つ。関節の痛み、内臓の病気、視力や聴力の低下など、似た症状を出す別の病気を外す必要があること。そして、環境の調整や薬・食事による手当てで、進行を遅らせたり夜の様子を落ち着かせたりできる場合があることです。同マニュアルは昼夜のリズムを立て直す方法として、寝る場所と時刻を毎日そろえること、日中に浴びる光を増やすこと、夜は部屋を暗くすることを挙げています。日中に人と関わる時間を増やすことも同じ枠です。
老犬の夜鳴きは、自己判断で様子を見る期間を長くとらないでください。かかりつけで相談するのが先です。しつけ教室の選び方に、教室より先に病院へ行く目安をまとめています。
1週間たっても、夜が終わらないとき
![]()
正直に書きます。この手順でいちばんきついのは、判断そのものより睡眠が足りない状態で毎晩それを実行し続けることです。3日目までは冷静に見分けられても、5日目の午前3時に「行くべきか」を正確に決めるのは、かなり難しい。
1週間やって夜が短くならないなら、足りないのは根気ではありません。たいていは次の4つのどれかです。寝床の位置がまだ遠い。夕食が早すぎて夜中に空腹になっている。夜中の手順が毎回少しずつ違う。家族の誰かが抱き上げている。どれも、毎晩やっている本人には見えにくいものです。
選べる道は3つあります。
- パピークラス・しつけ教室。子犬の時期は相談できる相手がいるかどうかで負担がまるで違います。生後6ヶ月未満を対象にしたコースを持つ教室が多く、夜の過ごし方も含めて聞けます。全国のしつけ教室から、住んでいる市区町村で探せます。近くに何があるか見当もつかないなら、ワクチンの2回目や3回目で通う動物病院で聞いてください。パピークラスを併設している病院もあります。
- 飼い主が学ぶオンライン教材。夜中に人に聞けない時間帯でも、手元で確認できるのが利点です。下で書きます。
- 動物病院。体調不良のサインがある、分離不安の兆候が強い、成犬や老犬が急に鳴き出した。この3つは、教室より先にここです。判断の目安はしつけ教室の選び方にまとめてあります。
夜中の午前3時に、そこにいるのは飼い主だけです
教室に通えるのは昼間、トレーナーに電話がつながるのも昼間です。ところが夜鳴きの判断が要るのは真逆の時間帯。「これは行くべき鳴き方か」を、眠い頭でひとりで決めなければならないのがこの困りごとの構造です。その場で誰かに教わるより、先に見分け方を自分の中に入れておくほうが実用的な場面があります。
「イヌバーシティ」は、その見分け方の側を作るための教材です。全1,260分。子犬向けと成犬向けが分かれていて、行動が落ち着くまでの途中経過も映像で追えます。叩いたり怒鳴ったりする場面はありません。43,780円(税込)。子犬の時期に自宅まで来てもらう指導は1回8,000〜20,000円が相場なので、3回頼むのと変わらない金額です。申し込んだその日からスマホで開けます。
正直に書いておきます。これは、映像を見て自分で組み立てる前提の教材です。「今夜どうすればいいか、いま電話で聞きたい」という状況には向きません。合うのは、迎える前や迎えた直後に、この先1年ぶんの見通しを先に持っておきたい方です。
夜中の2時に鳴き声が止まらない、行くべきか行かざるべきか毎晩迷う、隣の部屋の家族にも隣室にも申し訳ない——いろいろ調べても、結局「で、その瞬間どうすればいいの?」となっていませんか? 鳴いている犬に人がどう近づき、どこで手を止めているか。文章より映像のほうが早く伝わる部分です。イヌバーシティの公式ページには、実際の教材から抜き出した動画が置いてあります。子犬の回を1本見てから、どう対処したらいいのかを考えてもいいと思います。
※ 公式ページが開きます。教材のサンプル動画をそのまま見られます。
よくある質問
Q. 一緒のベッドで寝てもいいですか?
将来もずっとそうするつもりなら、選択肢のひとつです。ブルークロスも、飼い主が納得しているなら問題はないという立場をとっています。生後2〜3ヶ月の小さな体は、人の寝返りで下敷きになることがあります。ブルークロスが念を押すのは先の話で、成犬のサイズになっても同じベッドで眠れるのか、大型犬になる子犬なら考えておいてください。迷うなら、床の寝床+そばで人が寝る、が無難です。
Q. 夜中に何回起こされるのが普通ですか?
最初の2週間は、1回、多い夜で2回が目安。生後12週未満はほぼ確実に1回は必要です。回数より気にしてほしいのは1回あたりの時間で、排泄させて戻すだけなら3分で済みます。ここが20分、30分になっているなら、遊びや会話が混ざっています。回数は月齢とともに自然に減り、Woodgreenは多くの子犬が生後16週ごろには朝まで眠れるとしています。
Q. 何日か静かだったのに、また鳴き始めました
よくあります。原因の多くは、こちらの変更が早すぎたことです。寝床を動かした、部屋を変えた、家族の帰宅時間が変わった、季節で室温が変わった。直前の数日に何を変えたかを思い出し、ひとつ前の段階に戻してください。戻すのは後退ではなく調整です。何も変えていないのに再開した場合は、体調と室温を先に確かめます。
Q. 犬用のフェロモン製品は使う価値がありますか?
先ほどの56日間の研究は、もともと犬用フェロモン製品を調べるために行われたものでした。結果は犬種で差があり、猟犬グループでは使わなかった群の中央値が9夜、使った群は3夜。ほかの犬種群では両群とも3夜で差は出ていません。まずは寝床の位置と夜のルーティンを整えるほうが先です。使うかどうかは、月齢と体調を見たうえで、いつも診てもらっている先で判断を仰いでください。ここに書いたのは1本の研究の結果であって、商品としての何かを保証するものではありません。
Q. 共働きで、夜も日中も十分に構えません
迎える時期を選べるなら、数日まとめて家にいられる時期に合わせるのが最善です。すでに迎えているなら、優先順位は「夜そばにいること」「夕方に体力を使うこと」「日中の刺激」の順。日中留守にするなら、フードを詰めた知育トイを置き、帰宅後の30分を集中して使ってください。
Q. 「1週間放っておけば必ず終わる」と言われました
終わる子はいます。ただし、この記事で紹介した記録には、ひとりで寝た子犬のうち25夜鳴き続けた子もいました。個体差の幅がかなり大きいということです。そして英国の主要な動物福祉団体は、迎えたばかりの時期に鳴くままにしておくことを勧めていません。静かになったとしても、それは安心したからではなく、呼んでも来ないと学んだからかもしれない——という理由です。最初から寝室で寝かせるほうが、結果として短く済みます。
まとめ
今夜からの持ち帰りは、この6つです。
- 迎えた直後に鳴くのは正常。母犬と兄弟から離れて、生まれて初めてひとりで眠る夜です
- 目安は1週間。記録では初日71%、7日目22%、14日目で15%未満。合計は平均5.5夜。ただし3週間かかる子もいます
- 最初の1〜2週間は、原則として行く。トイレ・寒暑・空腹・体調不良・分離不安の兆候は、無視してはいけない鳴き方です
- 行くときは、無言・低照度・3分以内。抱き上げて遊ぶと、鳴き声そのものが目的になります
- 寝床は寝室から始めて、2晩静かなら30cm動かす。いきなり別室へ移すと、そこからやり直しになります
- 成犬・老犬の夜鳴きは別の問題。体の不調、分離不安、認知機能不全が背景にあるので、受診が先です
子犬の夜鳴きは、期間が決まっている困りごとです。ただ、その最中は先が見えません。1週間続けて手ごたえがなければ、組み立てのどこかが噛み合っていないと考えてください。パピークラスは夜の過ごし方まで相談できて、同じ月齢の飼い主と情報を持ち寄る場にもなります。
※ 本文で紹介した日数や割合は、公表されている調査・研究の結果です。すべての子犬に同じ経過をお約束するものではありません。
※ 体調不良や認知機能に関する記述は一般的な情報です。気になる様子が見えたら、いつも診てもらっている病院へ早めにご相談を。

