玄関を開けた瞬間に胸まで跳んでくる。来客の靴に前足をかける。散歩ですれ違った人にリードを引っ張って突進する。服は汚れ、相手には謝ってばかり。子犬のうちは笑って済んだものが、体重が10kgを超えたあたりから笑えなくなってきた——そんな段階だと思います。
先に結論です。飛びつきは犬にとって「人の顔に届くための手段」で、跳んだあとに毎回、注目・接触・言葉という報酬が返ってきます。放っておけば必ず強くなる。だから止め方は「跳ばせない」ではなく、4本の足が床についている間だけ良いことが起きる、という順番に組み替えることです。
この記事では、帰宅時・来客時・散歩中の3つの場面を分けて、秒数と日数まで決めた手順を書きます。あわせて、膝で押す・足を踏む・叱るがなぜ裏目に出るのか、けがをさせたときに飼い主が負う責任まで整理します。
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最終更新 2026年9月8日
飛びつきは、犬の側では毎回きちんと成功している
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要点は3つ。飛びつきは顔に届くための手段であること。跳んだあとに人が返す反応がすべて報酬になっていること。そして「押しのける」がいちばん強い報酬になっていることです。
犬は人の顔に挨拶したいが、身長が足りない
犬同士が挨拶するとき、顔の高さはだいたい同じです。ところが相手が人間になると、犬の頭は人の膝から腰のあたりにしかありません。顔まで50cmから100cm足りない。その差を埋める動作が、前足を上げて跳ぶことです。
これは推測ではなく、測られています。チェコのメンデル大学のチームが2017年に発表した調査は、立って迎えた場合としゃがんだ場合を比べました。しゃがんだほうが、犬が飼い主の口元をなめる行動は増えます。帰宅の直後で8.7倍、器を持っているときで10.5倍。立って迎えられた犬は、なめたいのに顔が遠い。だから跳ぶわけです。同じ調査では、飛びつきが知らない人より家族に向かいやすく、帰宅の場面で出やすいことも示されています。
「押しのける」が、いちばん確実なごほうびになっている
跳んできた犬に対して、私たちがとっさにやることは決まっています。手で押し返す。「ダメ!」と言う。前足をつかんで下ろす。犬の側から見ると、この3つは全部同じ意味です。跳んだら、人が自分に向き直って、声を出して、体を触ってくれた。
とくに押し返す動きは相性が悪い。手が前に出て、押して、また戻る。この往復は、犬にとって前足で応酬する遊びそのものです。押すほど勢いが増す犬がいるのは、そのためです。
この「跳ばせているのは人の反応のほう」という見立ては、実験でも確かめられています。英国クイーンズ大学ベルファストのグループが2019年に発表した研究は、飛びつきに悩む5組の飼い主と犬で、条件を変えながら跳んだ回数を数えました。飛びつきを支えていたのは、飼い主が手に持つ物が手に入ること(4頭)か、飼い主の注目が返ること(1頭)のどちらかでした。犬の性格でもしつけ不足でもなく、その場で人が返しているものが原因だったということです。
ゴールは「跳ばない」ではなく「床にいると得をする」
行動を減らしたいとき、減らすことだけを狙うとうまくいきません。犬には「やらない」という行動が存在しないからです。
4本足が床についているときだけ、良いことが起きる
この一行が、この記事の全部です。おやつも、声も、なでるのも、リードをつけるのも、ドアを開けるのも、全部「4本足のとき」に寄せます。前足が浮いた瞬間に、人は動きを止めるか、その場を離れる。跳ぶと世界が止まり、床にいると世界が動き出す。この対比だけで、多くの犬は2週間ほどで変わり始めます。
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玄関で跳びつかれた瞬間、手をどこに置いていますか?
飛びつきは、跳ばれたあとの数秒で強くもなり弱くもなります。押し返すのが逆効果だと知っていても、とっさに手が出てしまうものです。
手と体の向きまで、映像ならすぐに真似できます。「イヌバーシティ」には、出迎えの場面もそのまま入っていますよ。
※ 公式ページが開きます。教材のサンプル動画をそのまま見られます。
うちの犬はどの場面で、何のために跳んでいるか
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同じ「跳ぶ」でも、目的が違えば手順が変わります。まず1週間、いつ・誰に・何回跳んだかをスマホのメモに残してください。たいていは2つか3つの場面に集中しています。
| 場面 | 跳び方の特徴 | 犬が手に入れているもの | 先に手をつけること |
|---|---|---|---|
| 帰宅の再会 | 玄関で正面から。顔をなめようとする。声を出しながら跳ぶことも | 顔への接触、声、なでられること | 玄関に入ってからの最初の1分の動き方を決める |
| 来客 | チャイムの時点で走り出し、ドアが開いた人に体当たり気味に跳ぶ | 新しい人の反応。悲鳴や笑い声も含む | 玄関に到達させない。ゲートかリードで先に区切る |
| 散歩中の他人 | すれ違う人、しゃがんで話しかけてくる人に向かって前に出る | 知らない人が立ち止まって触ってくれること | すれ違う距離を作る。リードの持ち方を変える |
| 要求(ごはん・散歩・抱っこ) | 飼い主が特定の物を持った瞬間に跳ぶ。フード袋、リード、鍵など | その物が早く出てくること | 手に持った物を、跳んでいる間は動かさない |
| 興奮の暴走 | 誰にでも跳ぶ。跳んだあとも走り回る、吠える、噛む動きが混ざる | 盛り上がった状態そのもの | 跳ぶ前の段階を下げる練習が先 |
いちばん下の「興奮の暴走」だけは、飛びつき単体の練習では追いつきません。スイッチが入ってから止めようとしても、犬にはもう聞こえていないからです。入る前の段階から下げる練習が要るので、興奮しすぎて落ち着かない犬への練習を先に読んでください。跳びながら手や袖に歯を当てる子犬なら、子犬の噛み癖の記事の手順と組み合わせます。
表に入れなかった場合がひとつ。これまで跳ばなかった犬が急に跳ぶようになった、跳んだあとに唸る、触られるのを嫌がる部位がある、着地でふらつく。跳ぶこと自体より、前後の様子が変わったかを見てください。痛みや不安が背景にあると、練習を積んでも動きません。動物病院が先です。どんな様子なら受診を優先するかはしつけ教室の選び方で整理しています。
代わりに教える2つの行動|秒数を決めて練習する
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教えるのは2つだけです。「4本足」——床に足がついたまま人に近づく。「おすわりで挨拶」——人の前に来たら自分から座る。どちらも跳ぶことと同時にはできない動作なので、これが入れば飛びつきの居場所がなくなります。どちらもAKC(アメリカンケネルクラブ)とVCA動物病院の解説が挙げる代替行動です。
その1|4本足(3日)
難易度が低いので、ここから。使うのは米粒大に切ったささみか、5mm角のチーズ。普段のフードでは弱いので格を上げてください。
- 1日目|まだ跳んでいない時間に払う。家族のひとりが近づいたら、犬が思いつくより先におやつを2〜3粒、前足の間の床へ。拾っている数秒が「床にいた時間」になります。その間に肩を1回なで、食べ終わる前に1歩下がる。10回。
- 2日目|払うのを1秒だけ待つ。近づいて、床に足をつけたまま1秒。待てたら落とす。前足が浮いたら、何も言わずに1歩下がって仕切り直し。10回。
- 3日目|3秒に伸ばす。3秒、4本足のままでいられたら落とす。ここまでできたら家族以外の人に交代します。
コツはおやつを床に落とすこと。手から渡すと犬の鼻が手の高さまで上がり、そこから跳ぶまでは一瞬です。床の一点を見ている犬は、跳ぶ姿勢そのものが作れません。おやつは犬の頭より高い位置に持たないでください。
その2|おすわりで挨拶(10日)
「おすわり」がまだあやしい犬は、静かな部屋で単体の練習から。人が近づいてくる状況でいきなり座らせるのは順番が逆です。
- 1〜3日目|まず座って待つだけ。リードをつけ、家族が3m離れて立ちます。ゆっくり近づき、座ったら3秒数えてからおやつを床へ。立ち上がったら無言で元の位置に戻ってやり直し。1回2分、1日3回。
- 4〜6日目|手が下りてきても座っていられるか。5秒待てたら、近づいた人が手の甲を犬の胸の高さまで下ろします。座ったままなら肩を2回なでておやつ。前足が浮いたら手を引いて背を向け、3秒待ちます。
- 7〜8日目|人の側の動きを増やす。荷物を提げてくる、途中で足を止める、名前を呼びながら来る。増やすのは1回にひとつだけ。2つ重なると、たいてい崩れます。
- 9〜10日目|人を替える。同じ人に5分おきに10回出入りしてもらうほうが、別々の日に10人に会うより早く入ります。
おやつを渡す間隔は、できるようになってから2回に1回、3回に1回と空けていき、最後は言葉となでるだけに。ただし完全にゼロにはしないでください。
練習中に飛びつきを「させない」ための道具
本番で1回跳ばせると、練習10回分が消えます。物理的に跳べない状態を作ってから練習に入ってください。室内用のリードを玄関のフックにかけておく、ベビーゲートで玄関と居室を区切る。この2つで足ります。首輪よりY字型の胴輪(ハーネス)のほうが、跳んだ拍子に首だけへ力が集中するのを避けられます。
【場面別】帰宅・来客・散歩、それぞれの手順
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3つの場面は難易度がまったく違います。帰宅がいちばんやさしく、来客が次、散歩中の見知らぬ人がいちばん難しい。この順番で進めてください。
帰宅時|10秒渡して、10秒何もしない
帰宅の飛びつきには、よく「無視して落ち着いてから挨拶する」と書かれます。方向は正しいのですが、実際にやると多くの家が失敗します。無視しているつもりで目が動く、荷物を持ち上げるときに手が触れる、30秒で我慢しきれず声をかける。中途半端な無視は「粘れば届く」という練習になります。
そこで、無視するかどうかを犬の行動で決めるのをやめます。時計で決めてください。さきほどのクイーンズ大学ベルファストの研究が、飼い主に教えて実際に飛びつきを減らした手順です。
- 玄関で過ごす時間を、先に1分と決める。1分を10秒ずつに割り、相手をする10秒と何もしない10秒を交互に3往復。切り替えるのは時計であって、犬が跳んだかどうかではありません。
- 相手をする10秒は、低い位置で。低い声で名前を呼ぶ、胸をゆっくりなでる、おもちゃを渡す。高い声と速い手の動きは使いません。
- 何もしない10秒は、まっすぐ立つ。目も合わせず、声もかけません。
- ドアを開けて入る姿勢も決めておく。立ったままで構いません。上体を少し前に倒し、両手を床のほうへ下ろす。手が腰の高さにあると、犬はそこを目指して跳びます。
- 1分が終わったら、そのまま居室へ進む。
なぜ犬の行動と無関係にするのか。跳んで手に入れていたもの(注目・接触)が、跳ばなくても定期的に手に入れば、跳ぶ動作の必要がなくなるからです。この手順を飼い主に教えた実験では、参加した4組のうち3組で飛びつきが減りました。判定に自信がない人ほど、時計式のほうが実行しやすいはずです。
帰宅の1分だけは、家族全員が同じ動きをする
お父さんは無視、子どもは抱き上げる、おばあちゃんは顔を寄せる。この家の犬が学ぶのは「人によって跳んでいい」ではなく「何回か跳べばいつか当たる」です。たまにしか当たらない報酬は、毎回もらえる報酬より行動を強くします。帰宅の最初の1分だけでいいので、家族全員のやり方をそろえてください。
来客時|玄関に着く前に、勝負はついている
来客の飛びつきは、玄関で対処しようとしても間に合いません。チャイムが鳴った時点で犬はもう走っていて、ドアが開いた0.5秒後には相手の胸にいます。玄関に到達させないことがすべてです。
- 予定が分かっている日は、鳴る前にリードをつける。手が空かないなら、玄関から2m以上離れた家具の脚に短く結んでおきます。
- 待つ場所を、先に敷いておく。玄関から離れていて、そこから人の出入りが見えすぎない場所を。条件はインターホンの記事に。前の章の「おすわりで挨拶」が、ここで生きてきます。
- チャイムが鳴ったら、まず犬をマットへ送り、それから玄関へ。飼い主が先に玄関へ走ると、犬は「一緒に対応する場面だ」と受け取ります。
- 来客が入ったら、最初の3分は犬を出さない。人が靴を脱ぎ、荷物を置き、座るまで。動いている間がいちばん跳びやすい時間帯です。
- 4本足で近づけたら、来客に胸の高さで手の甲を出してもらう。前足が浮いたら体を横に向けてもらい、飼い主はリードで静かに1歩下げます。引っ張らず、体重を後ろへ移すだけ。
欠かせないのが来客への事前の一言。相手が善意で「いいのよ、大丈夫」と受け止めると、その1回で練習が巻き戻ります。
来客にお願いする3つ(このまま伝えてください)
- 「跳んだら、体を横に向けて、顔を見ないでもらえますか」。押し返すのも下ろしてあげるのも、犬には同じごほうびです
- 「4本足で立っていたら、そのときだけ声をかけてください」。順番が逆にならないよう先に決めておきます
- 「おやつは渡さず、私に渡してください」。来客が直接出すと、人を見た瞬間に期待して跳ぶようになります
チャイムの音そのもので走り出す段階なら、飛びつきより先に音の練習が要ります。手順はインターホンに吠える犬の記事に。人が入ったあとの吠えと警戒は来客に吠える犬を落ち着かせる方法で分けました。
散歩中|他人に跳びつく場合は、距離が先
散歩中がいちばん難しいのは、相手を選べないからです。犬好きの人は、こちらの都合と関係なくしゃがんで手を伸ばしてきます。練習より先に、管理で事故を止めます。
- 人通りのある場所では、リードを短く持つ。手首に巻きつけず、余った分は手の中でたたんで握ります。目安は犬の頭が自分の膝の横にある長さ。広い場所に出たら緩める、という切り替えを意識的に。
- 伸縮リードは、人とすれ違う場所では使わない。伸びきった線の先で起きたことは、こちらの手からは止められません。ロックを押し込むころには、もう接触は終わっています。
- 触りたいと言われたら、断ってよい。「いま練習中なので」で十分です。会わせるなら犬が座ってから近づいてもらう。順番を人任せにしないでください。
- すれ違いの練習は「見えたら名前」から。人が見えた時点で名前を1回呼び、こちらを見たらおやつ。相手に集中してからでは届きません。10m先で戻れるなら次は8mと縮め、戻れなくなった距離がいまの限界です。
前に出る力そのものが強い犬は、引っ張り癖を直す歩き方の記事を先に読むと、この練習が一段やりやすくなります。
子ども・高齢者・大型犬|けがと、飼い主が負う責任
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要点は3つ。転倒は犬の大きさとあまり関係がないこと。けがをさせたときの責任は思っているより重いこと。跳ぶこと自体が犬の関節にも負担だということです。
倒れるのは、押されたからではなく、驚いたから
「大型犬に体当たりされて倒れる」という絵を思い浮かべがちですが、危ないのは接触の強さではありません。犬が苦手な人は、触られる前の段階で、避けようとして自分の足をもつれさせます。倒れる引き金は体重ではなく、予期していなかったという一点です。体重3kgのチワワでも同じです。
国内のしつけ解説がよく引く判例があります。1973年、島根県。8歳の女の子が連れていた犬が、すれ違った73歳の女性に近づいて前足を上げました。驚いた女性は尻もちをついて大腿骨を折り、入院中に持病の糖尿病が悪化して12日後に亡くなりました。賠償を命じられたのは、犬の飼い主と女の子の親です。咬んでも、押し倒してもいません。近づいて前足を上げた、それだけです。
「悪気はなかった」は、法律上の言い訳にならない
東京都の動物愛護相談センターのサイトに載る、外部の法律家によるコラムによれば、飼い主は民法718条1項でいう動物の占有者にあたり、自分の犬が他人に負わせた被害を金銭で埋める立場に置かれます。一般の不法行為より重い立て付けで、責任を外れるには飼い主の側が、民法の言う「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をした」ことを示さなければならず、それが通ることはほとんどないとされています。
賠償の中身は治療費だけでなく、交通費、休業損害、慰謝料、後遺症が残ればその慰謝料と逸失利益まで含まれます。同じコラムは、犬の咬傷事故について、後遺症の慰謝料だけで60万円、70万円と認定した裁判例を挙げています。「うちの子は人が大好きなだけで」は、この場面ではまったく通用しません。飛びついた勢いで口が当たれば、咬傷事故として数えられます。環境省の統計では、2023年度に全国で5,432件の咬傷事故が報告され、その9割以上が飼い主のいる犬によるものでした。
子どもがいる家、高齢の家族がいる家でやること
けがを防ぐために、練習より先にやる4つ
- 子どもには、跳ばれたときの止まり方を先に教える。走って逃げれば追いかけっこ、声を上げれば犬はさらに上がります。その場で止まって黙り、大人を呼ぶ。この2つだけ
- 子どもに叱る役をさせない。飛びつきへの対応は大人の仕事です。子どもがやると、犬は「この人には跳んでいい」を覚えます
- 高齢の家族が玄関に出る時間帯は、犬をゲートの内側に。転倒は骨折につながり、骨折は生活そのものを変えます
- 大型犬は、床の滑りを先に直す。着地でフローリングを滑ると犬の関節を傷めます。玄関から居室までの動線にカーペットを
犬の側にも負担があります。効いてくるのは着地で、跳び上がった体を毎日受け止めれば腰と後ろ足の関節に力が集まります。国内のしつけ解説では、椎間板ヘルニアや膝蓋骨脱臼の後押しになりうると注意されています。抱っこしてほしくて跳ぶ犬なら、跳ばせる前に人のほうが抱き上げる形に変えてください。
やってはいけないNG対応
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飛びつきは、昔から力技で止める方法が数多く紹介されてきました。その多くは、その場は止まって見えて、別の問題を作ります。理由とセットで挙げます。
膝で胸を突き上げる。もっともよく紹介され、もっとも勧められない方法です。痛みで止めるやり方は「人が近づくと胸が痛い」という学習になります。人が来ると避ける、うなる、先に歯を当てる、という別の困りごとに変わることがあります。力加減を間違えれば肋骨や胸の軟骨も傷めます。止まったように見えても、それは人への接近そのものが怖くなっただけです。
後ろ足を踏む、前足をつかんで握り続ける。同じ理屈です。犬の足の指は細く、体重をかけられれば骨折します。踏まれた記憶は足先を触られること全体に広がるので、爪切りや足拭きを拒む犬になります。力・痛み・精神的な不快に頼るやり方は、しつけにも問題行動の治療にも使うべきではない——米国獣医動物行動学会(AVSAB)が2021年に出した立場表明は、そう述べています。犬が人を怖がり、攻撃に転じ、関係そのものが崩れる。失うものが大きすぎます。
「ダメ!」「降りて!」と大きな声を出す。注目を求めて跳んでいる犬にとって、これは望みどおりの結果です。声が大きいほど強い報酬になります。不安から跳んでいる犬には、跳んだ瞬間に怖い声が乗るので、次はもっと落ち着かない状態で人に近づくことになります。
無視だけで押し通す。無視は「跳んでも何も起きない」を教えますが、「では何をすればいいか」は教えていません。人が動かない状態が続けば、犬はより激しく試します。無視するなら、必ず4本足やおすわりへの報酬とセットに。
「飛びついてもいい人」を作る。お父さんにはよくて来客にはだめ、という線引きを犬に引かせるのは無理です。当たり外れがあれば、犬は毎回試して確かめます。
「子犬のうちは仕方ない」と待つ。体重2kgのころに許されていた動作は、15kgになっても同じようにやります。跳ぶ高さと勢いだけが変わります。飛びつきは、成長で消える行動ではありません。
2週間続けても、玄関で跳ばれるとき
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この記事の手順は、読むぶんには簡単です。難しいのは、それを毎日、家族全員が、同じタイミングでやり続けるところ。2週間やって玄関の跳びが減らない家には、だいたい共通の理由があります。おやつを床に落とす手が半拍遅れている。家族のひとりだけが今も抱き上げている。来客に事前の一言を伝えられていない。玄関のリードを、いざというときに限ってつけ忘れている。
どれも、やっている本人からはいちばん見えにくいずれです。
選択肢は3つあります。
- 出張トレーニング・しつけ教室。玄関の広さ、待機場所、家族の動線は家ごとに違います。実際に跳ばれる様子を見てもらうのが早い。自宅へ来てもらえる先は全国のしつけ教室から住んでいる市区町村で探せます。候補が思い当たらない段階なら、帰宅の1分を動画に撮っておいてください。跳ぶ前に何が起きているかは、その場にいる人ほど見えていません。
- 飼い主が学ぶオンライン教材。手の高さ、体の向き、落とす瞬間を映像と見比べる方法です。下で書きます。
- 動物病院の行動診療科。跳んだあとに唸る、歯を当てる、跳ぶ以外の場面でも落ち着かない。ここまで出ているなら、飛びつきの手順だけを積んでも届きません。行動診療科で全体を見てもらう段階です。目安はしつけ教室の選び方に置いています。
玄関でその1分を過ごすのは、トレーナーではなく家族です
教室では、初対面のトレーナーの前でおすわりできる犬がたくさんいます。それでも家の玄関で跳ぶのは、そこにいる人の手の高さと、返してしまう反応が違うからです。飛びつきは犬が単独で選ぶ行動ではなく、人が返したものと組になって成立している行動。変える対象の半分は人の側にあります。
その人の側を作り直すために作られたのが「イヌバーシティ」です。全1,260分の映像で、手順よりも飼い主が犬をどう理解するかに時間を割いています。子犬と成犬で内容が分かれ、行動が変わる途中経過まで見られます。叩く、怒鳴るといった扱いは出てきません。43,780円(税込)。玄関の場面を出張トレーニングで見てもらうと1回8,000〜20,000円なので、3回頼むのと変わらない金額です。
正直に書きます。これは、映像を見て、自分の玄関で自分の手を動かす前提の教材です。「いまの手の位置は合っているか」をその場で指摘してほしいなら、家に来てもらうほうが確実。向いているのは、理屈を先に納得してから動きたい方と、家族全員に同じ映像を見せて動きをそろえたい方です。
帰宅のたびに胸まで跳ばれる、来客のたびに玄関で犬を押さえている、散歩ですれ違う人に前足をかけそうになる——いろいろ調べても、結局「で、その瞬間どうすればいいの?」となっていませんか? 跳ぶ気配を感じた時に飼い主の手がどこにあるか。それがポイント。文章より映像のほうが早く伝わります。イヌバーシティの公式ページには、実際の教材から抜き出した動画が置いてあります。1本見てから、対処法を考えてもいいと思います。
※ 公式ページが開きます。教材のサンプル動画をそのまま見られます。
よくある質問
Q. どのくらいで跳ばなくなりますか?
場面によって差が大きいです。帰宅時は、家族のやり方がそろえば2週間ほどで目に見えて減ります。来客は練習相手を頼める人数しだいで1ヶ月から2ヶ月。散歩中の見知らぬ人は3ヶ月見ておいてください。日数より確実なのは条件で、「その場面で5回続けて、1度も前足が浮かない」を満たしてから次へ進むと決めるのが早道です。
Q. 私には跳びませんが、家族と来客にだけ跳びます
よくある形です。あなたのところでは跳んでも何も起きず、他の人のところでは何かが起きている。家族それぞれが帰宅の1分で何をしているかを観察してください。顔を向ける、声のトーンが上がる、押し返す手が触れる——本人が気づいていない反応が見つかるはずです。来客のほうは、事前の一言がほぼすべてです。
Q. しゃがんで迎えれば跳ばれないのでは?
その場をしのぐ方法としては有効です。ただし2つ注意があります。ひとつは、しゃがむと顔をなめられる回数が増えること。前に挙げた調査では、立って迎えた場合と比べて8.7倍という数字が出ています。犬の口の中には人にうつる細菌がいるので、小さな子どもや体調を崩している家族がいる家では避けたほうが無難です。もうひとつは、荷物を持っているときや道でのすれ違いでは使えないこと。普段は立ったまま迎えて4本足を教え、しゃがんで迎えるのは急場の逃げ道、という使い分けが現実的です。
Q. 飛びつき防止の首輪や、スプレーの出る道具を勧められました
イヌカツでは勧めません。米国獣医動物行動学会(AVSAB)は、力や痛み、精神的な不快に頼るやり方をいかなる状況でも使うべきではないとしています。道具の種類にも、教える人の経験にもよらない。2025年の理事会声明はそう言い切っています。電気やスプレーで嫌なことを起こす道具は、ここに当たります。報酬を使うやり方に勝つ裏づけは見つかっておらず、犬が怖がり、不安を抱え、攻撃に出るようになる分だけ損だから、という理由です。飛びつきではとくに相性が悪い。犬は「人に近づいたら嫌なことが起きた」と結びつけるので、跳ぶのをやめる代わりに、人の接近そのものを避けるか、先に唸るようになることがあります。玄関で挨拶できる犬にしたいのに、玄関で人を警戒する犬になっては目的と逆です。
Q. 成犬になってからでも直りますか?
直ります。ただし子犬より時間はかかります。年数ぶん練習してきた行動なので、置き換えにも相応の回数が要るというだけです。成犬で始めるときのコツは、練習の場面を1つに絞ること。帰宅・来客・散歩に同時に手をつけると、どれも中途半端になります。まず帰宅の1分だけを2週間。そこが変わってから来客へ。1つずつ潰していくほうが、結局は早く終わります。
Q. 犬を飼っていない友人に、跳ばれて怒られました
謝ったうえで、次に来てもらうときは玄関で会わせない段取りにしてください。謝る状況が続くと、飼い主が来客そのものを避けるようになり、犬が人に慣れる機会まで減ります。当面は、ゲートかリードで玄関に到達させないことが最優先です。相手には「入ってすぐは犬を出しません」とだけ伝えておけば足ります。落ち着いてからの対面なら、協力も得やすくなります。
まとめ
最後に、この記事で決めたことを6行にまとめます。
- 飛びつきは、顔に届くための手段。身長差を埋める動作なので、禁止するだけでは代わりが残りません
- 跳んだあとの人の反応が、毎回の報酬になっている。押し返す、声を出す、前足を下ろす。全部です
- 教えるのは「4本足」と「おすわりで挨拶」の2つだけ。おやつは床に落とす。手から渡すと鼻が上がります
- 帰宅の1分は、時計で切り替える。10秒相手をして、10秒何もしない。これを3回。跳んだかどうかで判断しません
- 来客は玄関に到達させない、散歩は距離を作る。練習が完成するまでは跳べない状態を用意します
- 膝で押す・足を踏む・叱るは、飛びつき以外の問題を作る。人が近づくこと自体を嫌う犬になります
飛びつきは、家の間取りと家族の動き方に左右される行動です。2週間続けて変わらないなら、跳ばれる瞬間を誰かに見てもらってください。家族以外の目が入ると、動線のどこがまずいのかが一度で分かります。
※ 「4本足」と「おすわりで挨拶」はAKCとVCA動物病院の解説を、帰宅の1分は本文の2019年の研究を、家庭向けに整理したものです。すべての犬に同じ結果が出るとお約束するものではありません。
※ 法的責任についての記述は一般的な情報であり、個別の事案について助言するものではありません。実際に事故が起きた場合は、弁護士や自治体の相談窓口にご相談ください。
※ 体調の変化が疑われるときは、練習の前にかかりつけの動物病院にご相談ください。

