ソファの脚が白く削れている。配線に歯型がついている。帰ってきたらクッションの中身が部屋じゅうに散っていた。犬が物をかじる困りごとは、被害が目に見えるぶん、飼い主の心が折れるのも早い相談です。
先に結論を書きます。かじること自体は、やめさせられません。噛んで調べる、噛んで壊すのは正常な行動で、消そうとすると別の形で出てきます。やることは、かじれる物を減らし、かじってよい物を用意し、その2つを結びつける——この3つだけです。
ただし、道具を置くだけでは足りません。米国テキサス工科大学のチームが2025年に発表した研究では、生後3〜10ヶ月の犬29頭に新しい噛むおもちゃを1週間与えたところ、おもちゃで遊ぶ時間は増えたのに、かじってほしくない物をかじる頻度は変わりませんでした。
かじる理由を6つに分けた表から始めて、環境の整え方、噛んでよい物の基準、現行犯の1秒で行う交換の手順、留守番中の手当て、飲み込んだときの対応まで書きます。人の手や体を噛む問題は別の記事に分けました。
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最終更新 2026年9月8日
物をかじるのは、犬にとって正常な行動です
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はじめに、前提を3つ。なぜかじるのか。なぜ「やめさせる」ではなく「移す」なのか。人を噛むこととはどう違うのか。
顎と歯のためでもあり、気持ちの逃がし場でもある
米国動物虐待防止協会(ASPCA)は、かじる行動が犬にとっていくつもの役目を持つと説明しています。若い犬には生えてくる歯の痛みをやわらげる手段。年をとった犬には顎を保ち、歯をきれいにしておく行動。そして退屈をしのぎ、軽い不安やもどかしさを逃がす手段でもあります。
オーストラリアRSPCAの解説も、犬がいろいろな素材を噛みたがるのは食べることと環境を調べることの一部であり、体と心の健康に要る行動だとしています。噛む対象をゼロにするのは、犬にとって不健康です。ここを取り違えると、対策が「取り上げる」方向に寄ります。
被害の大きさは、思っているほど極端ではありません
同じ研究チームは、飼い主29人に、犬がかじってほしくない家財を壊したことがあるかも聞いています。「軽い被害」が65.5%、「大きな被害」が13.8%、「被害なし」が20.7%。多くの家では、大惨事ではなく削れと破れが積み重なっている状態です。挙がった物で最も多かったのはソファの脚・クッション・カーペットといった家具まわりと、衣類。この記事が家具を中心に書いているのは、そこが実際に狙われる場所だからです。
人を噛むこととは、扱いが別です
子犬が人の手や足を口に入れる甘噛みは、この記事の範囲外です。相手が人の体か物かで、教えることも止め方も変わるから。手を噛まれて困っているなら子犬の噛み癖はいつ直る?へ。両方が同時に起きる家は珍しくないので、その場合は2本を並行して進めます。
「かじらせない」ではなく「どこでかじらせるか」
この記事の手順は、すべて行き先を作る作業です。噛みたい気持ちの量は、叱っても減りません。変えられるのは向かう先だけ。先に行き先を用意してから、届く範囲を狭める。順番を逆にすると、犬は行き場をなくして別の物を探します。
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取り上げた物の代わりを与えていますか?
かじっている物を奪うだけだと、犬は次の物を探します。大事なのは、取り上げと同時に別の何かを差し出すことです。ただ、その2つを重ねるタイミングは、文章だとよく分かりません。
手の運びは、動画で動きを見たほうが早く飲み込めます。「イヌバーシティ」には、その置き換えを実演している動画が置いてありますよ。
※ 公式ページが開きます。教材のサンプル動画をそのまま見られます。
【表】かじる理由は6つ|どれに当たるかで手が変わる
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うちの犬がどれに当たるのか、ここで決めます。VCAの解説は、なぜかじっているのかの見きわめが出発点だとしたうえで、いつ・どこで・直前に何が起きたか・家族はどう反応したかを日記につける方法を勧めています。3日ぶんで、たいてい見えます。
| 理由 | 犬の側で起きていること | 見分けの手がかり | 最初に手をつけるところ |
|---|---|---|---|
| ① 歯の生え替わり | 乳歯が抜けて永久歯に替わる時期で、歯ぐきに違和感がある | 生後4〜6ヶ月ごろ。硬くて歯ごたえのある物を選ぶ。1歳ごろには落ち着く | 冷やせる噛み物を用意する。届く物を減らす |
| ② 探索と遊び | 見慣れない物を口で調べている。噛むと形と音が変わるのが面白い | 次々と対象が変わる。人がいる時間帯にも起きる | 床に物を置かない。遊びの時間を増やす |
| ③ 退屈・運動不足 | 使い道のない体力が余っている | 散歩が短い日、雨の日に集中する。夕方に多い | 1日の運動量と、頭を使う遊びを足す |
| ④ 不安(留守番が中心) | ひとりになる不安を、噛むことで紛らわせている | 人がいない時間にだけ起きる。ドアや窓のまわり、飼い主のにおいがつく物が狙われる | 不在の練習をやり直す。カメラで様子を確かめる |
| ⑤ 注目を得るため | かじると人が飛んでくる、と学習している | 人が見ているときだけ始める。目を合わせてからかじる | 反応の出し方を変える。静かな時間に関わる |
| ⑥ 習慣として固まった | 同じ場所を繰り返し噛み、その感触が報酬になっている | いつも同じ1か所。削れた面が滑らかになっている | その面を物理的にふさぐ。ほかの場所より魅力を落とす |
④だけは、扱いがまったく違います
ASPCAは、分離不安のストレスから噛む犬はひとりのときだけ噛むか、ひとりのときに最も激しく噛むと書いています。鳴き続ける、うろうろ歩く、排泄してしまうといった様子も一緒に出ます。当てはまるなら、おもちゃを増やしても解決しません。噛んでいるのは退屈だからではなく、怖いからです。手順は犬の分離不安の治し方に。玄関や窓枠、サッシの下ばかり削れているなら、外へ出ようとしている可能性が高く、これも同じ側です。
⑤は、飼い主の反応が燃料になっています
VCAの解説は、かじるたびに注目やおやつが返ってくると、それが叱る形でも犬には報酬になりうると指摘しています。「こら!」と駆け寄る動きは、犬から見れば人が飛んできてくれる出来事です。目を合わせてからかじり始める犬は、この型を疑ってください。
環境管理|まず、かじれる物を減らす
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順番があります。ここを飛ばして練習から入ると、練習していない時間に崩れます。ASPCAも、犬が成功しやすい家にしておくことを最初の項目に置いています。
1|床から物をなくす。おもちゃも含めて
- 膝より低い場所から、物をどかす。紙袋、読みかけの本、充電ケーブル、書類、テレビのリモコン。いちばん確実で、いちばん続かない手でもあるので、置き場所を先に決めてしまうのがコツです
- 脱いだ靴と洗濯物はふた付きの入れ物へ。ASPCAは、下着や生理用品を飲み込むと消化管の中で膨らむことがあり危険だとして、ふた付きの容器を勧めています
- 配線は壁側へ寄せ、コードカバーをかぶせる。感電と火災に直結するので、ここだけは最優先で
- 犬のおもちゃも、同じように片づける。これは見落とされがちです。床に転がっている物と、そうでない物。犬にその区別はつきません。遊び終わったらしまう、を1セットにしてください
2|狙われる面を、物理的に触れなくする
家具そのものを動かせるなら、それが最短です。動かせないなら、歯が当たる部分に布や家具用の保護材を巻きつけ、歯が入る形をなくします。削れる感触そのものが面白さなので、その手ごたえを消すのが目的です。部屋ごと立ち入らせない形にするなら、突っ張り式のペットゲートが1つあれば用が足ります。
3|苦味スプレーは、あくまで補助です
市販の噛み防止スプレーは使ってよい道具ですが、期待の置き方を間違えないでください。ASPCAは、使うならまず犬に味を教えるところから始めるとしています。脱脂綿に少量つけ、そっと口に入れて味を確かめさせる。そのうえで対象の物に塗り、2〜4週間は毎日塗り直す。そして同じ解説が、スプレーだけでは足りず、犬は「何を噛んでよいか」も学ぶ必要があるとはっきり書いています。個体差の大きい道具だと思っておいてください。
よく紹介されているが、勧めない3つ
- 缶や鍵束を投げて驚かせる。その場では止まりますが、犬が結びつけるのは「かじると音がする」ではなく「この部屋は安全でない」。隠れてかじるようになるだけで、行動は残ります
- ワサビや唐辛子を塗る。舐めた辛味成分で胃腸に負担がかかります。少量でも、しつけの道具に食品の刺激を持ち込まないでください
- アルミホイルを巻く。嫌な感触で避けるという方法ですが、かじって飲み込む危険があります。量が多ければ詰まりの原因になり、尖った縁が消化管を傷つけます
かじってよい物の選び方|硬さ・サイズ・ローテーション
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見るのは3点。硬さ、大きさ、飽きさせない回し方です。ここを外すと、けがや誤飲につながります。
硬さ|硬ければよい、ではありません
長持ちする物を選びたくなりますが、ここに落とし穴があります。長時間もつ素材ほど硬いからです。牛や馬の蹄、加熱していない大きな骨、硬質のナイロン。どれも何時間でも噛めますが、その硬さはそのまま歯にかかります。奥歯が縦に割れる事故は、こうした物で起こります。
目安は、爪を立てると跡がわずかに残る程度。爪がまったく入らない物は硬すぎます。
では、やわらかければいいのかというと、そうではありません。VCAの解説によれば、ほとんど噛まずに崩れてしまう物や、噛む前に飲み込める小さな物では、噛みたい欲求そのものが残ります。すぐ無くなるので、犬はまた別の物を探しに行きます。この幅の中から選んでください。
大きさ|飲み込めないことが最低条件
ASPCAは具体的な注意を挙げています。飲み込める大きさの物、砕けて破片になる物は与えない。ゴムや硬いプラスチックのおもちゃは食べる前提で作られていないので、欠けが出たら使うのをやめる。硬い素材は先端がすり減って細くなったら、折れて飲み込まれる前に捨てる。食べられるタイプは丸呑みしがちな犬ほど注意が要り、同協会はそういう犬にはほかの犬から離れた場所で与えるよう勧めています。取られまいと急いで飲み込みやすいからです。
与える物を決めるときの3つの質問
- 口の幅より大きいか。奥歯の間に挟まらず、丸ごと飲み込めないサイズを選びます
- 10分そばで見ていられるか。新しい物を渡す日は様子を見ます。かけら単位で飲み込む犬なら、その素材は合っていません
- いつ捨てるかを決めてあるか。すり減って細くなった、表面が裂けた、においがついた。この3つのどれかで交換します
飽きさせない|数と回し方
ASPCAは、長く噛み続けている物の系統を覚えておくことと、数日ごとに入れ替えることを勧めています。
運用にすると、こうなります。手元に置くのは5個から7個。ただし、一度に床へ出すのは2つか3つまで。残りは箱にしまい、数日おきに入れ替えます。全部を出しておくと、犬にとってはどれも「いつもそこにある物」になり、価値が下がります。数を増やすより、会う頻度を下げるほうが効きます。
中に食べ物を詰められるゴム製のおもちゃは、この用途に向いています。VCAは、レバーやチーズを塗る、缶詰のフードを詰めて凍らせるといった工夫で興味が長持ちすると書いています。凍らせると、食べ終わるまでの時間が伸びます。中に詰められるゴム製の知育トイは、留守番の前に出す物としても使いやすい選択です。
そして、おもちゃを置くだけでは変わりません
冒頭の研究に戻ります。テキサス工科大学のチームが新しい噛むおもちゃを1週間渡したところ、においつきのおもちゃを受け取った群では7割の飼い主が「よく噛むようになった」と答えました。それでも、かじってほしくない物をかじる頻度は変わっていません。ここから言えるのは、用意した物とやめてほしい物を、人の手で結びつける工程が要るということです。ASPCAも、犬は何を噛んでよいかと同時に、何を噛んではいけないかを学ぶ必要があると書いています。
【手順】現行犯の1秒で、交換する
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ここは秒単位の話です。同じ「やめさせる」でも、いつやるかで意味が変わります。
帰ってから叱っても、犬には結びつきません
ASPCAは、壊した跡を見せてあとから叩いたり叱ったりしてはいけないとしたうえで、その理由を数時間前、いや数分前の行動とであっても、犬は罰を結びつけられないからと説明しています。Merck獣医マニュアルも、粗相を見つけたあとの罰について、役に立たないばかりか逆効果になりうると書いています。VCAにいたっては「行動を直せるのは、その場を押さえたときだけ」と見出しに立てています。
犬の側で何が起きるか。帰宅した人の表情と声が急に変わる。散らかった部屋があって、そこに自分がいる。学習されるのは「クッションを噛んだのがまずかった」ではなく、「この人は帰ってくると急に怖くなることがある」です。よく言われる「悪いことをした顔」は、その怖さへの反応であって、反省ではありません。
間に合ったときの、6つの手順
- 声を出す前に、体を入れる。犬と家具のあいだに静かに立ちます。大きな声は要りません。叱られた理由が分からない犬は、怯えるか、隠れてかじるようになります
- 低い声で短く合図する。「あっ」でも「おしまい」でも。名前は呼ばないこと。名前が中断の合図になると、呼んでも来なくなります
- すぐに、噛んでよい物を出す。ここが本体です。ASPCAも、噛んでいる物を口から外し、噛んでよい物を差し入れ、そのうえで明るく褒める流れを示しています
- 差し出す物を動かして見せる。床に置くだけでは切り替わりません。少し引っぱる、転がす、においを嗅がせる。動く物のほうが強い
- 噛み始めたら、そこで褒める。おもちゃに歯が当たった瞬間に声をかけ、一緒に遊びます。この数十秒が翌週の被害を決めます
- 取り上げた物は、その場で片づける。戻すと、また同じ場所で同じことが起きます
これを続けると、犬の中で順番が入れ替わります。家具に口をつけた瞬間に遊びが終わり、おもちゃに口をつけた瞬間に遊びが始まる。止めて終わりにせず、そのあと一緒に遊ぶところまでを1回分と考えてください。この落差が積み上がって、はじめて犬のほうから選ぶようになります。
口から出させようとすると唸る犬は、手順を変えてください
これは重要な例外です。ASPCAは、口の中の物を取り上げようとして攻撃的な反応が出るおそれがあるなら、自分で進めず専門家へ相談するよう明記しています。手順は犬がご飯やおもちゃを守って唸るに分けました。この場合は口から取るのではなく、犬が自分から放したくなる形で交換します。
1日の運動と頭を使う遊び、そして留守番中の手当て
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量の話をします。表の③と④に当たる家では、ここを整えないかぎり、どれだけ片づけても別の物が減ります。
体を使う時間と、鼻を使う時間は別物です
散歩を長くしただけでは、余っている力の半分しか使えません。体力と、頭の退屈は別の口座です。RSPCAの解説も、器に入れたフードを食べるだけの生活では噛みたい気持ちが満たされないことがあると指摘しています。
- 1食ぶんを、器ではなくおもちゃから出す。知育トイに入れる、部屋に撒いて探させる。食事の時間が、そのまま頭を使う時間になります
- ノーズワークを1日10分。紙コップの下に隠す、マットに撒く。体力の消耗より、鼻を使ったあとの落ち着き方が大きく変わります
- 引っぱりっこを5分。噛んで引く動きは家具をかじる動きにいちばん近い。同じ動作を、認められた形で出させます
- 出かける30分前に、必ず動かす。ASPCAも、長くひとりにする前はしっかり遊ばせてから出るよう勧めています。この一手だけで留守番中の被害が減る家があります
働く仕事のために作られた犬種は、必要な量が上がります。VCAの解説も、そうした犬種は体も頭も相応の活動を前提にしていると書いています。日常の興奮が高くて何をしても収まらないなら、犬が興奮しすぎて落ち着かないを先に読むと土台が整います。
見ていられない時間は、範囲を狭める
ASPCAは、監督できないときは犬が不適切な物を噛めない状態を作る必要があるとし、クレートかゲートで仕切った小さな部屋を挙げたうえで、閉じ込める時間は6時間までとしています。区切った場所には噛んでよい物だけを置きます。クレートに入れると鳴く犬は、そこを先に整えるほうが早い。手順は犬がクレートやケージを嫌がるに、留守番の組み立て方は上手に留守番してもらう方法にあります。
退屈か不安かは、カメラで見分けられます
VCAの解説は、留守中に起きているなら録画してみると不安が原因かどうかの判断がつくとしています。ペットカメラを1台置いて、出かけてから30分を見てください。
| 映像で見るところ | 退屈が中心 | 不安が中心 |
|---|---|---|
| 始まる時間 | しばらく寝てから、退屈したころに始まる | 出た直後の15〜30分に集中する |
| 場所 | 部屋のあちこち。その日の気分で対象が変わる | 玄関、窓、サッシの下。出口のまわりに集中する |
| ほかの様子 | 合間に寝る。落ち着いて噛んでいる | 鳴き続ける、うろうろ歩く、よだれ、排泄が一緒に出る |
| 次にやること | 運動と知育を足す。噛んでよい物を留守番前に出す | 不在の練習をやり直す。程度が強ければ行動診療科へ |
飲み込んだかもしれないとき
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ここだけは、しつけの領域ではありません。かじる困りごとで本当に怖いのは、家具の被害ではなく飲み込んだあとに起きることです。
誤飲は、思っているより身近に起きています
アニコム損害保険が公表している保険金の請求データでは、生後1年目の犬が誤飲で請求に至る割合が、2019年の8.1%から2024年には13.0%へ上がりました。0〜2歳に集中し、2020年以降は増加傾向。さらに初めて犬を迎えた家庭では、この割合が約20%にのぼるとされています。同社は、1年目に誤飲を経験した犬は2年目も起きやすいとも報告しています。1回起きた家は、環境をもう一段整える段階です。
受診の目安
VCAの解説には、異物が詰まった犬に出る様子が挙げられています。見る場所ごとに整理すると、次のようになります。ふだんの様子では、吐く、元気がない、ごはんを残す。排泄では、下痢、あるいは便を出そうといきむのに少ししか出ない。そして触ったときに分かるのが、お腹の痛みです。抱き上げたりお腹まわりに手を当てたりすると、唸る・噛むという形で出ることがあります。そのまま便に出ることもある一方、詰まった場合は手術で取り出すしかなく、時間との勝負です。血流が数時間止まれば組織が傷むためです。
飲み込んだと分かったら
- 症状が出ていなくても、まず動物病院に電話する。何を、いつ、どのくらいの大きさで飲んだかを伝えます。同じ物が残っていれば持参を
- 自己判断で吐かせない。塩や薬品を使う方法がいまも紹介されていますが危険です。尖った物や紐状の物では、吐かせること自体が食道を傷つけます
- 紐、布、竹串、電池、ボタンは様子見をしない。腸の中で引っかかったり膨らんだりする物は、時間を置くほど手当てが大きくなります
- 「出るだろう」と思っても記録する。飲んだ日時と、その後の便と食欲をメモしておくと、数日後の受診で役に立ちます
しつけより先に動物病院を選ぶべき場面はしつけ教室の選び方にまとめてあります。
やってはいけないNG対応
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よく紹介されている方法のうち、勧められないものを理由つきで並べます。どれも「分からせたい」という気持ちから選ばれます。
壊れた物を見せて叱る。犬は数分前の行動と罰を結びつけられません。積み上がるのは反省ではなく、帰宅の時間そのものへの不安です。そして不安は、噛む行動の原因のひとつでした。叱るほど留守番中の破壊が増える回り道が、ここで完成します。
口をふさぐ、噛んだ物をくわえさせて固定する。ASPCAは、粘着テープで口を閉じるやり方を非人道的であり犬に何も教えないとしたうえで、この方法で命を落とした犬がいると警告しています。壊した物を体にくくりつける方法も同じです。使わないでください。
音や仕掛けで驚かせる。缶を投げる、動きに反応してスプレーが出る機械を置く。獣医師向けの資料には手段のひとつとして挙がっていますが、このサイトでは勧めません。不安が原因の犬に不快な出来事を足すことになり、④の型では悪化します。退屈が原因の犬にも、行動の理由は残ります。
電気・スプレー・超音波の首輪を使う。使わないでください。米国獣医動物行動学会(AVSAB)が2021年に公表した声明は、しつけに用いてよいのは報酬にもとづく方法だけであり、電気首輪やプロングカラー、チョークチェーンといった体と心に苦痛を与える手段は、どんな場面でも使うべきでないという立場です。嫌悪的な方法が優れているという証拠はなく、恐怖や攻撃性が増える危険があります。罰を使わずに教える考え方は叩いたり叱ったりせずにしつける方法で扱っています。
古い靴やタオルを、噛んでよい物として与える。やりがちですが逆効果です。ASPCAは、いらなくなった靴やクッションを渡すのは犬を混乱させるとしています。どの靴なら噛んでよくて、どの靴がだめかを見分けろというのは無理な注文です。タオルも同じで、犬に渡した1枚と、洗濯かごに入っている1枚を見分ける方法がありません。
長時間クレートに閉じ込めて解決とする。被害は止まりますが、原因はひとつも動いていません。ASPCAは6時間を上限とし、閉じ込めるぶん、出ているあいだの運動と関わりをしっかり取るよう書いています。管理は時間を買う手であって、答えではありません。
2週間続けても、被害が減らないとき
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正直に書きます。この困りごとがこじれる家には共通した事情があります。いちばん見たい場面を、誰も見ていないのです。かじられるのは、たいてい人がいない時間か別の部屋にいる時間。残るのは削れた脚と散らかった綿だけで、そこから原因を逆算するのは難しい。トレーナーに来てもらっても事情は同じで、人が家にいる1時間、犬はまず家具をかじりません。2週間やって減らないなら、次の3つのどれかへ。
- 出張型のしつけ教室。かじられている場所そのものを見てもらえます。どの家具から手をつけるか、ゲートをどこに立てるかは、間取りを見ないと決まりません。全国のしつけ教室で、地域と訪問対応の有無から候補を絞れます。
- 飼い主が学ぶオンライン教材。交換の手順と、噛んでよい物の与え方を自分の手で作れるようにする道です。下に書きます。
- 動物病院。留守番のたびにパニックになる、自分の体を噛む、出口を壊して爪や口から出血している。この3つのどれかなら、行動診療を扱う獣医師が窓口です。材料はしつけ教室の選び方に置いてあります。
その1秒に居合わせられるのは、家の人だけです
この記事でいちばん差が出るのは、交換の手順でした。ところがあの数秒は予定に組み込めません。夕食の支度中にテレビ台のほうから音がした瞬間、洗濯物をたたんでいて視界の端に動きが入った瞬間。声を出さずに体を入れ、代わりの物を動かして見せられるのは、そこで暮らしている人だけです。結局のところ、飼い主が「なぜ取り上げる前に差し出すのか」を理解していて、同じ手を何度でも繰り出せるかで決まります。
その受け皿にあたるのが、オンライン教材の「イヌバーシティ」。犬に何をさせるかというより、人が何をどう伝えているのかを扱う教材で、飼い主の考え方そのものにまで踏み込みます。収録は1,260分。手順だけを切り出すのではなく、そこから行動がどう変わっていったかという経過と結果まで映像に入っています。体罰は一切出てきません。内容は子犬用と成犬用に分けて紹介され、購入した当日からスマホでもパソコンでも開けて、視聴の期限もありません。金額は43,780円(税込)。出張トレーニングの相場が1回8,000〜20,000円、かじる問題は場所と時間帯が絡むぶん数回になります。そこへ買い替えた家具の代金が乗ることを思えば、見え方は変わるはずです。
ここは正直に。映像を見たうえで、自分の家の間取りに当てはめて試す形の教材です。「今日のうちに、どの家具から手をつければいいか教えてほしい」という状況には向きません。合うのは、なぜ環境が先で、なぜ叱るより交換が大切なのかを腑に落としてから動きたい方です。
削れたソファの脚、破れたクッション、歯型のついた配線——いろいろ調べても、結局「で、その瞬間どうすればいいの?」となっていませんか? かじっている犬へ人がどう近づいて、どんな手つきで代わりを渡しているか。読んで想像するより、見たほうが早い部分です。イヌバーシティの公式ページには、実際の教材から抜き出した動画が置いてあります。いたずらの回をひとつ見て、それからどうするかを考えても遅くはありませんよ。
※ 公式ページが開きます。教材のサンプル動画をそのまま見られます。
よくある質問
Q. 子犬の歯の生え替わりは、いつ終わりますか?
永久歯への生え替わりが始まるのは、生後4〜6ヶ月ごろ。すべて生えそろうのは、おおむね1歳前後です。ASPCAは、この時期の強い噛みたがりは生後6ヶ月ごろまでにいったん収まるとしています。ただし収まるのは「歯ぐきの違和感で噛む」ぶんだけで、探索や退屈で噛むぶんは残ります。この時期に噛んでよい物を決めておくかどうかで、1歳以降が変わります。冷やせるおもちゃや凍らせた濡れタオルで楽になる犬がいます。
Q. 成犬になってから、急にかじり始めました
まず、変わったことを思い出してください。引っ越し、家族構成の変化、勤務時間の変化、工事の音、同居のペットが増えた。始まった時期の1〜2週間前に手がかりがあることがよくあります。次に痛みや不調を確かめます。Merck獣医マニュアルは、攻撃行動や排泄の問題について、獣医師はまず体の病気を除外すると書いています。急に始まった行動の変化は、同じ順番で見ます。心当たりが何もないのに始まったなら、受診が先です。
Q. かじり防止スプレーは使う価値がありますか?
個体差が大きい道具です。ASPCAは、まず少量を口に入れて味とにおいを覚えさせてから塗ること、2〜4週間は毎日塗り直すことを勧めつつ、それだけでは足りないともはっきり書いています。使うなら、環境の整理と交換の練習をやったうえでの補助として。書いたのは手をつける順番であり、個々の商品の働きを請け合うものではありません。
Q. 留守番中だけかじります。おもちゃを増やせば済みますか?
足りるかどうかは、出かけた直後の30分で分かります。出た直後に玄関や窓のまわりを集中して壊しているなら、退屈ではなく不安です。鳴き続ける、うろうろ歩く、よだれ、排泄が一緒に出ているならなおさら。手順は犬の分離不安の治し方に分けました。逆に、しばらく寝てから起き出してあちこち気ままにかじっているなら、運動と知育を足すほうが早く変わります。
Q. 留守番中に、電気やスプレーの出る首輪を着けておくのはどうでしょうか?
使わないでください。米国獣医動物行動学会(AVSAB)の2021年の声明は、電気の流れる首輪や、とげのついた首輪、締まる首輪、リードを引いて衝撃を与える扱いを列挙し、どんな場面でも用いるべきではないとしています。苦痛を与える手段が報酬にもとづく手段より優れている裏づけはなく、恐怖や攻撃性が増す危険のほうが確かだから、というのが理由です。留守番中の破壊は不安が背景にあることが多く、その犬に痛みや驚きを足す組み合わせは、とりわけ噛み合いません。相談先が分からないなら、出かけたあとの30分をカメラで録るところから始めてください。壊しはじめるのが出た直後なのか、何時間か経ってからなのかで、打つ手が変わります。
Q. 家具の被害が大きくて、もう限界です
被害の大きさと、原因の深さは比例しません。1日で数万円ぶん壊れていても、原因が退屈なら、運動と知育と環境の整理で2週間のうちに落ち着くことがあります。まずやってほしいのは、犬を1つの部屋に限定し、そこから壊れる物をすべて出すこと。被害をいったんゼロにして、頭を冷やす期間を作ります。
まとめ
最後に、手を動かす順番だけ並べておきます。
- かじること自体はやめさせられない。歯と顎のためであり、退屈と不安の逃がし場でもある正常な行動です。消すのではなく、行き先を移します
- 理由は6つ。歯の生え替わり、探索と遊び、退屈と運動不足、不安、注目、習慣。3日ぶん記録をつけると、どれかが浮かびます
- 環境が先、練習が後。床から物をなくし、配線をまとめ、狙われる面をふさぐ。犬のおもちゃも出しっぱなしにしない
- 与える物は硬さと大きさで選ぶ。爪跡がわずかに残る硬さで、飲み込めない大きさ。すり減ったら捨てる。5〜7個を日替わりで回します
- 結びつけるのは現行犯の1秒だけ。声より先に体を入れ、代わりの物を動かして見せ、噛み始めた瞬間に褒める。帰ってから叱っても届きません
- 飲み込んだら、症状がなくても電話する。1年目の誤飲請求は13.0%まで増えています。紐、布、串、電池は様子見をしないこと
物をかじる犬は、意地悪をしているのでも、恨みを晴らしているのでもありません。噛みたい気持ちが、たまたま家具に向かっているだけ。向き先を変えれば、家具は無事になり、犬の側も満たされます。
※ 本文の月齢・期間・数量はいずれも目安で、犬種や体格、育った環境によって変わります。
※ 誤飲と体調についての記述は一般的な説明にとどまります。飲み込んだ疑いがあるとき、様子がいつもと違うときは、自己判断せず動物病院に連絡してください。
